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妹島和世 建築家

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人と人との関係を築く「開かれた建築」こそ、
日本ならではのデザイン=設計の魅力。

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金沢21世紀美術館:21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa © SANAA
ルーヴル=ランス(フランス):Louvre-Lens © Kazuyo Sejima + Ryue Nishizawa / SANAA, Tim Culbert +Celia Imrey / IMREY CULBERT, Catherine Mosbach
Grace Farms © Iwan Baan

目指すのは、公園のように自由な空間づくり。

—妹島さんが建物をデザインする際に、一番重視していることは何ですか?

妹島:建築の世界では、デザイン=設計ということになると思いますが、周囲の環境やスケールに溶け込む、そうですね、公園のような空間をつくりたいと思っています。その思いは、建築家としてのスタートを切った最初の頃から変わりません。公園という場所には、実に様々な年代の人が集いますよね。元気に走り回る子供がいて、その子供を見守るお母さんがいる。ベンチには休憩中のサラリーマンがいたり、仲睦まじいカップルがいたり。同じ公園の中にいて、それぞれ自分のやりたいことを楽しみながら、自由に時間を使っているわけです。一見見知らぬ人同士が、開かれた空間を共有していることを自然に受け入れ、感じることができる。私が設計する際も、公園のように自由で開かれた空間づくりを心がけています。

—そういえば、妹島さんが設計された建物には、外部と内部に繋がりを持たせたものが多いですね?

妹島:はい。もちろん雨露は防がなければいけませんから、建物に「囲い」が必要なわけですが、囲いをつくった上で、どうやってその周囲の人や物や事象と繋げていくかを考えます。囲いで完全に区切って、それぞれに違ったもの入れ込んだら孤立してしまうけれど、外部や他の空間との繋がりを少しでも感じることができれば、人と人がお互いに影響を受けあいながら、より良い関係性が構築できる場所になる。私が実現したいのは、思考や好みの違った様々な人たちが、時には近づいたり、時には離れたりしながら、自由な関係性を楽しむことができる建物や空間、つまり「開かれた建築」なんです。

—開かれた建築…なんだかステキな響きです。

妹島:そうですね。扉を開ければ風が入ってくる。いろいろな音が聞こえてくる。「あ、向こうに誰かいるね」とか「隣から楽しそうな声が聞こえてくるね」とか。お互いをリスペクトしながら暮らしていけるような、快適で自由な生活空間をつくることです。例えば、日本の伝統的な建物も「開かれた建築」のひとつ。屋根や庇(ひさし)があって、壁にはスライディング式の障子や襖が使われている。庭に繋がる縁側では、家族や近所の人たちが座って話をする。庭に降りていくと、四季折々の借景も楽しめる。外と内が自然に繋がった自由な生活空間が成立しているんです。

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ROLEXラーニングセンター(スイス):Rolex Learning Center © Alain Herzog
ニューミュージアム(アメリカ):New Museum © Dean Kaufman

世界の建築と日本の建築。
お互いのいいとこ取りが主流に。

—妹島さんが手がける「開かれた建築」は、今や世界でも認められていますね。

妹島:海外の若手建築家なども積極的にそう考えているように思います。思い返せば20年くらい前、私がはじめてヨーロッパのコンペに参加した時「開かれた建築」を説明するために「open」という単語を使ったりしたんですが、全く理解してもらえませんでした。その後「そういう考え方もいいかもしれないけど、日本は特殊な環境でしょ」という感じから「なるほど。建築を開くって、いいものだ」と少しずつ見方が変わっていって。今ではヨーロッパの建築家たちの間でも普通に使われるようになりましたから、日本の考え方が少しずつ世界に浸透していったということなのかなあと思います。

—世界の建築と日本の建築が近くなっている?

妹島:近付いている部分と、それぞれが持っている個性や歴史性を大切に守っている部分、2つの方向性があると思います。例えば、重厚な建物が主流のヨーロッパは、日本の伝統建築にあるようなスライディング式の扉ではなく、たとえ開けるのに苦労するような重いガラス素材のものでも、ビシッと閉まる扉を好む。そういった違いはどこまでも残ります。とはいえ、最近では日本と世界の生活様式が近づいたところもありますから、お互いを認め合いながら、それぞれのいいところを取り入れていくんじゃないでしょうか。

—日本が世界に比べて遅れていると感じる点はありますか?

妹島:「日本人は広め方が下手」とは、よく言われます。例えば、スイーツや料理でも、ファッションでも、突発的に取り上げられて話題になることは多いけど、産業化に至らない。「産業として広めていけばいいのに、もったいない」って。イタリアの建築家としての立場で言えば「海外に比べて建築や設計が尊重されていない」と感じることはあります。例えば大きなプロジェクトの場合、海外ではコンペが行われる会場に外交官まで訪れて「国もバックアップしています」と積極的にアピールするんです。日本の場合、ありえないことですからね。

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Grace Farms(アメリカ):Grace Farms © Iwan Baan
犬島「家」プロジェクトA邸:Inujima Art House Project / A-Art House © Kazuyo Sejima & Associates, "reflectwo" courtesy: Haruka Kojin (SCAI THE BATHHOUSE)
荘銀タクト鶴岡:Shogin Tact Tsuruoka © SANAA

数値で測る住宅性能よりも、
人間の感覚で気持ちのいい空間を。

—さきほど遮音性のお話がありましたが、日本も住宅性能重視の傾向はありますよね?

妹島:たしかにプロダクト化も進んで「住宅性能こそが重要」という考え方もあります。住宅性能は数値でその良し悪し測ることになるわけですが、例えば遮音性を例にとると、建物は静かな湖のそばから、都会の大きなビルの隣まで、様々な立地に建つわけです。周囲の環境も考慮せず、数値だけで判断するべきではないと思います。以前、アメリカで750人規模のホールを手がけたんですが、クライアントから「音楽にもトークにもダンスにも使いたい」という要望があがりました。求められる音の周波数は全く違いますから、とにかく難しい。検討した結果、厚い布地のカーテンを使った空間、薄い布地のカーテンを使った空間、カーテンを使わないガラスのみの空間、この3つを使い分けようということになったんです。ところが実際には、音楽でもトークでもダンスでも、揃ってカーテン使わない。しかも「音楽を奏でるのにいいホールだ」「ダンスには最適だ」「話をする空間としてすごくよかった」と、出演者から口々にお褒めの言葉をいただきました。もちろん、測ってみればいい数値が出るわけはないんですが、音楽やダンスやトークを楽しんだ人たち全員にとって、快適な空間ができあがっているということだと思います。

—それはおもしろい!数値に現れない快適さですね。

妹島:日本でも同じようなことがありました。岡山で小さなホールつくったんですが、音楽にもスピーチにも最適な空間と評価していただいて。世界的な演奏家が「いいホールだから」と使ってくれたこともありました。つまり、本当に大切なのは数値だけではなく、周囲の環境を含めた空間全体の中で「いい音楽が演奏できた」と感じることができるかどうか。多様な人間の感覚が「ここは気持ちいい」と判断できることなんだと再認識したんです。

—最後に、妹島さんの考える建築デザインの未来を教えてください。

妹島:どうなるんでしょうね。最近はとにかく性能重視が進行していますが、「この高性能なガラスと壁を組み合わせたら、効率的な空間ができあがります」だけでは、やはり寂しい。プロダクトでも建築でも「絶対こう使いなさい、こう見なさい」というデザインより「こう使ってみても面白い」とか「こういう風にも見える」など、使う人が自分なりにデベロップメントしていけるものの方が楽しいと思うんです。特に建物は、建てる場所が一つひとつ異なります。全く同じ空間をつくっても、それぞれの立地や環境によって、住む人、使う人の感じ方は絶対に違うはずです。私としては、その場所、その環境にあるからこそ「快適」と感じることができる建物や空間が設計したいですし、そういうものは、ある一義的な性能から判断するべきではないと考えています。繰り返しにはなりますが、これからも思考や好みの違った様々な人たちが、自由な関係性を楽しむことができる、公園のように開かれた空間づくりにこだわっていきたいですね。

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妹島和世氏

1987年、妹島和世建築設計事務所設立。95年、西沢立衛氏とともにSANAA設立。2010年、日本人女性として初となる建築界のノーベル賞「プリツカー賞」受賞。フランスの芸術文化勲章オフィシエに叙される。主な作品に「金沢21世紀美術館」(金沢市)、「Dior表参道」(東京都港区)、「ニューミュージアム」(NY)、「ROLEXラーニングセンター」(スイス・ローザンヌ)、「ルーブル=ランス」(フランス・ランス)、「すみだ北斎美術館」(東京都江東区)など。最近では、島をまるごとリノベーションする瀬戸内海の「犬島プロジェクト」を企画したり、2018年完成の電車車両を居住空間の一つととらえて設計するなど、常に新しいことに意欲的に取り組む妹島さんに、建築デザインの今と未来を伺った。

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