cdc communication design center

Photo by Mikiya Takimoto

「大阪芸大の新しい校舎」に「新しいクリエイティブ」を作れないか?そんな問いかけから生まれたのが、インスタレーション「大阪芸術大学30号館を浮遊する100の言葉」です。

本企画は、アートディレクター古平正義氏、ライゾマティクスデザインの木村浩康氏と塚本裕文氏、写真家の瀧本幹也氏、計4人のクリエイターによって進められました。

その舞台は、常に創造性のある言葉が飛び交うアートサイエンス学科の新校舎です。完成した作品は、空間いっぱいに浮かぶ100個の透明なバルーンに吊られたポスター。そのポスターに刻まれている100の言葉は、ビルボード(アメリカの音楽チャート)の年間チャート上位100位の曲のタイトルデータです。「歌と言葉は密接なものであり、ヒット曲のタイトルに使われている言葉は時代や世相が反映されたものである」という考え方から、まずは大阪芸大が誕生した1957年から、妹島和世氏設計の新校舎が完成した2018年までの62年間分の年間チャート、合計6200曲分のタイトルを解析。次に英語のタイトルワードの中でも利用頻度の高かった『You』という言葉が含まれた曲のタイトルのみを洗い出し、一緒に使われていたワードを抽出しました。さらに、評価の高い楽曲で使われているワードを浮き彫りにするため、チャートのランキング順にポイント(100位=1点から1位100点まで)での重みをつけることで、順位データを確定させたのです。

浮遊するバルーンは、その位置や高さまで、すべてがデータ結果に基づくもの。それぞれの言葉がその順位を表す配置となっています。当初は上位のワードを上に配置するピラミッド型を考えましたが、舞台となっている校舎の場合、下から見上げることになると考え、ポイントの高いワードを下に配置する円錐状に落ち着き、抽出された100の言葉がランキング順に浮遊するという、これまでに例のないインスタレーション作品が完成しました。

今回の作品は、本来のクリエイティブやクオリティよりも経済性や合理性が重視され、「目立てばいい」「売れればいい」という風潮に、あえて一石を投じたもの。派手にするのではなく、歴史ある大阪芸大だからこそ、普遍的な「美しい」「かっこいい」という感性に訴えかける表現を目指しました。

4人のクリエイターが創り上げた本作品には、いくつもの示唆があります。「クリエイティブの未来」についての答えを探り出すためにも、大阪芸術大学アートサイエンス学科の新校舎での動きにご注目ください。

CDJ NEWS 02

銀座あけぼの定番商品「味の民藝」のパッケージデザインをリニューアル。


洗練された豊かな印象を与えるパッケージが、購買意欲を引き出すカギに。

パッケージリニューアルに際しては、これまでと同様、箱の掛け紙のデザインに、商品名の由来でもある「民藝運動」で活躍した人間国宝芹沢銈介氏の「春夏秋冬」を使用。素朴で洗練された風合いの漆箱もまた、継続させました。一方で、中身の小袋のパッケージは大胆に変更。日本の小紋からインスピレーションを受けつつ、モダンにリデザインしました。また、草木染めの味わい深い色彩も忠実に再現しています。 今回のリニューアルでは、店頭での見せ方を意識するとともに、リアルマーケティングの手法を取り入れ、事前に顧客の嗜好を見据えた上での商品化となりました。結果、シビアと言われている菓子マーケットの中で「味の民藝」の売上は大きくアップ。メディアでも取り上げられ、そのパッケージデザインも注目されることになりました。 最近、菓子業界では「中身の美味しさ以上に、洗練された豊かな印象を与えるパッケージこそが、購買意欲を引き出す重要なカギ」と言われだしています。これからの市場拡大に欠かせないのは「価値ある見せ方」や「新しい価値の伝え方」の工夫。各菓子メーカーでは、パッケージデザインにこだわった商品展開に力を入れはじめています。

「パーソナルギフト」という考え方が浸透し、「小袋」の位置付けが変化。

もともと「味の民藝」は、お中元やお歳暮などの贈答品として、箱単位で購入されることが多かった商品ですが、最近では、自分自身やごく身近な人への贈り物として、小袋を買い求める層が増えています。その背景には、いわゆる「ギフト」市場が大きく変化し、「パーソナルギフト」という考え方が浸透しつつあることが挙げられます。例えば今年、高級チョコレートで有名なゴディバの日本法人「ゴディバ・ジャパン」が、バレンタインのキャンペーンでうたった「日本は、義理チョコをやめよう。」というメッセージが話題を呼びました。このように、「自分へのご褒美にしたい」「身近な人に、より良いものを送りたい」という思いが、購買意欲につながりはじめているのです。

COMMUNICATION NOW — episode 4

人間とAI・ALifeが高め合いながら
共に新しい発想を生み出す未来へ。

今回のテーマは、AI・ALifeの進化と共により明確となっていく「人間の役割とテクノロジーの役割」。私たち人間が、今後AI・Alifeとどういった関わりを持つべきなのかを考えていきましょう。

考察にあたって振り返りたいのが、アンドロイド「オルタ」シリーズによる画期的なプロジェクトです。記事内では、開発者の一人であるAlife研究の第一人者・池上高志氏のインタビューコメントを引用させていただきました。

アンドロイド「オルタ」の特有の
「揺らぎ」が生命感に繋がっていく。

「オルタ」は、前述の池上氏とアンドロイド研究の第一人者・石黒浩氏によって生み出された、人工生命(ALife)×アンドロイド。2016年「生命を持つように感じさせるものは何か?」というテーマのもと開発されたのが、当時日本科学未来館に展示された「オルタ1」です。その2年後には「オルタ2」が、音楽家の渋谷慶一郎氏発案のもと、800人の観客の前でオーケストラを指揮して歌うというユニークな試みが実施され、翌2019年には、表現力も豊かに進化した「オルタ3」が、新国立劇場の大階段でアンドロイドオペラ「Scary Beauty」の指揮をとりました。

池上氏によれば、このプロジェクトが目指しているのは「人工生命を創る」こと。モノをつかんだり、重たいモノを運んだりするロボットではなく、歌ったり踊ったり、絵を描いたりする存在です。「アートやエンターテインメントにおいては、個性や個別性が重要です」と池上氏。「例えば、私たちは『あの人のオペラが聴きたい』と思って劇場に足を運びますが、オペラ歌手からすれば喉の調子が良い日もあれば、そうでない日もある。毎回違っていることも個性や個別性の要素のひとつです」と話します。

池上氏の言う「個性や個別性」を創り出す存在が「揺らぎ」です。人間は機械のように、寸分違わず同じ行動をとり続けることはできません。日々の「揺らぎ」から生まれる違いによって新たな発見があり、感性が磨かれ、個別化していき、個性が進化していきます。アンドロイドの「オルタ」も、「揺らぎ」を学習したことで個性を獲得し、新たな「生命を感じる存在」になり得たのです。つまり「揺らぎ」こそが、人間らしさや生命感を生み出すものの一つと言えるのではないでしょうか。

2018年に公開された「オルタ2」には、人間の神経細胞に近い仕組みを備えたシステムが搭載されました。数百個の神経細胞がシナプスで繋がり、それぞれの神経細胞が発火する順序や、相互作用によって伝わる信号が増強したり減退したりすることで、自律的に構造化されていくメカニズム。同じ周期で振動したり、メトロノームのように正確にリズムを刻んでいるところへ、外部からの刺激やノイズ、信号が干渉することで、途端にカオス状態になるという仕組みです。

さらに、その技術を精緻化してモジュール化したものが、「オルタ3」に初めて搭載された「ALIFE Engine」です。モジュール化の実現により、幅広いシステムへの搭載が可能になり、「オルタ」のようなアンドロイドやAIだけでなく、揺らぎや愛着、親しみ、存在感など、生命表現が求められるようなプロダクトやサービスにも、応用していく予定だそうです。また今後は、神経細胞に近いメカニズムをさらに進化させることで、指1本1本の繊細な動きも目指していくと言います。このあたりの仕組みづくりにも、人間特有の「揺らぎ」というものが重要視されるのではないでしょうか。

人間とアンドロイドによって花開く
新たなコミュニケーションの未来。

ところで、オーケストラの演奏者は、指揮者の何を見ていると思いますか?実は、指揮棒よりも、指揮者の呼吸による身体の動きを読んで演奏しているのです。

一般に、指揮者は人間だからこそ成り立つと考えられています。「メトロノームに合わせて演奏するだけでいいなら、指揮者がいる意味はありません。指揮者が生命を持った存在であるからこそ、演奏者の心を動かすのです」と池上氏は言います。実際このプロジェクトでも、そういった要素を持たない初期のオルタの指揮では、演奏者がうまく演奏できませんでした。「オルタ2」「オルタ3」と、さらなる進化を遂げる中で、呼吸の強弱や感情の盛り上げ方などを学び、演奏者に伝わる指揮ができるようになったのです。まさに、世界で初めて「揺らぎ」を手に入れた「オルタ」が、指揮者に必要な「生命を感じる存在」となった瞬間でした。

とはいえ、人間の指揮とアンドロイドの指揮は全く異なるものです。「オルタ2」による「Scary Beauty」では、演奏者や聴衆から「人間の指揮者とは異なる、全く新しい領域の音楽だった」という声も聞かれました。これまで人間が発想できなかった領域や、人間同士では生み出せなかった作品や感動を実現させた「オルタ」は、テクノロジーから生まれる新たな生命体と言えるのかもしれません。

「シリーズ3代目の『オルタ3』は、今後さらなる進化を目指し、『人間と生活したり、アートやエンターテインメントなどで繋がることにより、心が生まれ、育まれるのではないか』という展望のもと、研究を進めていきます」と話す池上氏。今後、人間とAI・ALifeなど、テクノロジーとの関係性も大きく変わっていくことでしょう。「人間の役割は何か」「テクノロジーの役割は何か」にこだわるのではなく、お互いが触発されることで、新たな発想や今までなかった領域が生み出され、新たな文化へと発展させていくことが重要なのかもしれません。コミュニケーションデザインセンターでは、今後も人間×アンドロイドによって実現する、全く新しいコミュニケーションの未来に積極的に参加し続けていきます。

次回は少し観点を変えて、AIやディープラーニングによって大きく変化する「時間」ついて考えます。